meteor [star] shower(掌編)

月光の朝は早い。29時に目を覚まし30時に家を出る。黒い鳥の色が次第に際立ち始める時間だ。混雑したバスの中で抱き合う男女の前で二十分、荒い運転に耐えながら過ごし、螺旋駅で電車に乗り換える。地下改札行きの階段を下りているとき、「この屑どもめ死んじまえ」と思うか「こんなに大勢、自分と同じように嫌々働いている人たちがいる」と思うかで月光はその日の機嫌を確かめる。しかし背後からヒールの音が月光の耳に入ってきたので、その必要は今日についてはなかった。そうかと思うと車内でベビーカーに露骨に不機嫌な顔をする他人に殺意が芽生え、一言ぼそりと小言を聞こえるか聞こえないかのボリュームで言ってみたりするものだから、月光のことは月光もよくわからないでいた。工場に着くと、すでに流星群が作業を始めていた。今日は二兆個の発注が入っている日だ。とても二人では追いつかない。けれど作業テーブルに置かれた灰皿とリポビタンDの数を見たところ、流星群はどうやら自宅に帰らず昨晩から働き詰めでいるようだった。「流星群、止めてくれてもいいんだぞ」と月光は言った。

「止めるわけにはいかないんだ」と流星群は答えた。不眠症である月光にとって徹夜は見過ごせなかった。「私たちが考えているほど人間は不器用でなくはない」月光はそう言うと、流星群の肩に手を置いた。流星群はその長い腕が邪魔をして払いのけたくても月光の腕を払いのけることができなかった。このままでは頑張った甲斐がなくなってしまうと流星群は考え、月光の提案を受け入れることにした。それはすなわち多少なりと休息を取るということであった。流星群が別室の休息室に入ると、月光は兎が餅つきを止めてしまうほどの信じられないほどの集中力で作業を進めた。(横になるだけにしよう)そう考えていた流星群は眠ってしまったので、月光は昼過ぎまで一人で兎が跳ねて驚く集中力でもって手を動かし続けるのだった。仮眠を取った流星群が暫くしてから作業に戻り黙々と一言も口をきかずに二人が作業したおかげで、なんとか納期に間に合わせることができた。「さて、家に帰るとするか」ようやくだ。流星群にとっては三日ぶりの帰宅準備。そのとき、従業員二人の工場の扉が開いた。両耳に大きなイヤリングをした細身の女性と赤ん坊だ。月光は引っ張られたりしないのだろうか不思議に思った。「どうしたのさ」「ろくに寝てないで運転するのは危ないと思って」「じゃあわざわざこいつを連れて電車で来たのか」そう言って流星群はほのやかに寝ている赤ん坊の頬をやさしくつついた。月光はぎこちなく会釈を返した。なんと言われたか聞き取れなかったが話しかけられたのだ。「あと頼んでいいか」ああ、と月光は頷いた。返事を待たずに流星群は出口のほうに歩いていく。そして月光はその場に残された。あと片付けをして、黒い鳥が見えなくなった外に出ると既にここから出荷された無数の星々が夜空に拡がっていた。「早く家に帰らなくては」月光は思った。彼の存在は皆にとって不幸であるから。それが真実かどうかは分からないが、とにかく彼は家に早く帰らなくてはと思うのであった。了